【解説】 誰が何をなぜ求めているのか 米国とイランの和平協議

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画像説明, 墓参りをする人たち。イランでは今回の戦争で民間人を含む多数の死者が出ている(3月16日、テヘラン)
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フランク・ガードナー安全保障担当編集委員(ドーハ)

アメリカは、戦争終結に向けた建設的な協議が進行中だと主張している。一方、イランは「いや、そんなことはない」と否定している。いったい、どちらを信じればいいのだろうか。

舞台裏では何が起きているのか。湾岸地域での和平は目前だと信じていいのか。それとも双方は、エネルギー価格を高止まりさせ、夏の間ずっと世界全体に影響を及ぼし続けるような、大きな犠牲を伴う長期戦に備えているのか。

アメリカからイランには、確かにメッセージが伝えられている。ただ、間接的にであり、両国と良好な関係にあるパキスタンなどの仲介を経ている。

それは当然ながら「協議」とは別物だ。イラン軍の報道官が協議の実施を断固として否定しているのは、そういう理由からかもしれない。

双方の間で、間接的な接触や連絡のチャンネルは存在している。だが、何らかの合意はまだ当分先かもしれない。

現状は、ロシアとウクライナの戦争における行き詰まりと似た局面に入りつつあることを示している。双方が、終結を望んでいると言い、ただそれは自分たちの条件でのものだと主張する。そしてその条件は依然、相手側が受け入れられるものとはかけ離れている。

米国とイスラエルが求めていること

2月28日に今回の戦争が始まった際、アメリカとイスラエルは、軍事面でのイランに対する圧倒的な優位性が、必然的にイランの崩壊をもたらすと強く考えていた。

そうならないとしても、すでに経済的窮地にあるイランはすぐ屈服し、アメリカの条件で和平を乞うだろうとみていた。

だが、そうしたことは起きていない。アメリカとイスラエルが求めていることが、実現するとは限らない状況だ。イラン政権は1日1日と生き延びるたび、大胆さを増している。

イスラエルの放送局チャンネル12が報じた、15項目からなるアメリカの計画案の詳細には、イランの核開発計画の終了、弾道ミサイル計画の終了、イランの「代理民兵組織」(イエメンの反政府勢力フーシ派やレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなど)への支援の停止――が含まれている。

イランは見返りとして、制裁の緩和と、ホルムズ海峡の管理権の一部を得るとされている。

イランが求めていること

イランは当初、アメリカの15項目の計画案を、「行き過ぎた」内容だとしてはねつけた。

ただ、イランのアッバス・アラグチ外相は25日、そこまで明確な発言は避けた。国営テレビに対し、「いくつかの案」がイラン最高指導部に提示されていると説明。「立場を表明する必要があるなら、それは必ず決定される」と述べた。

イランの国営メディアは、戦争終結に向けたイランとしての5条件を挙げた。戦争賠償金の支払い、「ホルムズ海峡をめぐって権限を行使する主権」の国際的な承認、イランが再び攻撃されないことの保証――などがある。

これらの要求は、アメリカや同国の湾岸地域の同盟国にとっては、簡単にはのめないものだろう。

イランは、9000万人以上の人口と、湾岸諸国の中で最も長い海岸線をもつ地域最大の国として、「湾岸地域の警察官」というふさわしい役割を再び果たすべきだと考えている。イランはそうした役割を、1979年のイスラム革命で終えんを迎えた、国王(シャー)による支配体制の下で担っていた。

イランは、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊が湾岸地域からいなくなることを望んでいる。そして、同盟関係にあるロシア、中国、北朝鮮の支援を受けながら、湾岸地域における圧倒的な軍事大国になりたいと考えている。

イランは、アメリカを信頼するのは非常に難しいとしている。2025年と今年2月の2回、協議の席に着いたにもかかわらず、アメリカがそれを打ち切り、軍事攻撃に出た経緯があるからだ。

イランに批判的な人たちは、同国は単に協議を長引かせていただけで、中東全体を脅かす計画や政策を放棄するつもりは全くなかったと主張している。

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画像説明, イランは、アメリカと同盟関係にある湾岸諸国に対して報復攻撃を繰り返している

湾岸アラブ諸国が求めていること

湾岸アラブ諸国は、今回の事態に困惑している。

各国とも、イランに特別な好意はもっていなかった。だが、今回の紛争が始まるまで、イランとはどうにか折り合いをつけていた。

しかし、アメリカがこの戦争で全力を尽くし、それでもイラン政権を打倒できていない今、湾岸諸国は恐怖の思いで推移を見つめている。アメリカの攻撃によって傷つき、怒り心頭のイランは、ドローンとミサイルで、ペルシャ湾の対岸の国々を攻撃している。

アメリカや米中央軍(CENTCOM)をいら立たせていることに、イランは現在、戦略的に1カ月前よりはるかに強い立場にある。要衝ホルムズ海峡に対する事実上の支配権を確立できているからだ。

このことで、イランは世界のエネルギー市場への絶大な影響力を握っている。この戦争を終わらせるよう、アメリカのドナルド・トランプ大統領に国際的な圧力がかかれば、彼の選択肢は狭まるとイランは理解している。

湾岸諸国は理想としては、状況が1カ月前に戻ってほしいと思っている。しかし、あまりに多くのことがすでに起こり、イランはもはや一歩も引く気はない。

アメリカの海兵隊の約5000人と、第82空挺師団の部隊がこの地域に到着したことで、トランプ氏の選択肢は増えつつあるかもしれない。だが、ここにもリスクはある。

米兵らが展開され得る場所はいくつかある。イランの石油輸出拠点のカーグ島、同国ホルモズガーン州の沿岸部、紅海南端のバブ・エル・マンデブ海峡などだ。

あるいは、それら米兵の役割は、単にイランに対する交渉上の圧力を強めることかもしれない。

それでも、地上作戦はいかなるものでも、米軍に犠牲者が出る可能性を高める。これは米国内で極めて嫌われていることだ。そして、多くの人が「選択の戦争」と呼ぶ紛争に、同国をさらに深く巻き込ませるリスクを伴う。

イランの体制が存続し続けていることは、同国の構成員と要求を大胆にさせている。時間と地理的条件の両方が自分たちの味方だと、イラン側は考えている。

米ホワイトハウスが、イランは合意したがっていると世界に訴えれば訴えるほど、イランは合意を結ぶ気が弱まっていく。