【解説】 イランは存続を最優先 このため体制は強固に維持されている

治安部隊員は黒い制服を着てマスクをしヘルメットをかぶっている。体の前で右手を自動小銃にかけている。近くにカーキ色の車両がある

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画像説明, 暗殺されたイラン最高指導者アリ・ハメネイ師をたたえる横断幕の前で警備にあたる治安部隊員(3月31日、テヘラン)
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アミル・アジミ BBCペルシャ語編集長

ドナルド・トランプ米大統領が1日夜、視聴率の高い時間帯に行ったイランとの戦争に関するテレビ演説は、主導権を握っているのは自分だと示すためのものだった。だが同時に、根本的な矛盾もあらわにした。

トランプ氏は、イランの軍事力(海軍、空軍、ミサイル計画、核濃縮施設)をほぼ壊滅させたと宣言し、紛争は終結に近づいているとした。

ただ同時に、今後数週間で事態がさらに悪化する恐れがあるとも脅した。

その結果、メッセージはどっちつかずのものとなった。勝利を宣言しつつ、まだ確実ではないという内容だったからだ。

トランプ氏はまた、爆撃によってイランを「本来あるべき石器時代へと戻す」と警告。言葉の激しさを一段と増した。

この発言はイランで目に見える影響を及ぼした。ソーシャルメディアでは怒りが広がり、トランプ氏はイランを変えるかもしれないと期待した反体制派をも憤慨させた。

トランプ氏の言葉は、イラン国内で体制に圧力をかけるよう国民に促すどころか、むしろイランは包囲され攻撃されているという一部の国民の感覚をいっそう強める結果となった。

トランプ氏は演説でまた、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめ多くの高官や司令官が暗殺されたことで、イランでは事実上すでに「体制転換」が起きたと力説。「前ほど過激ではない、はるかに理性的な」指導体制が生まれたとした。

しかし、これを裏付ける証拠はほとんどない。

イランの権力構造は依然として変わっていない。今も最高指導者には権威がある。ただ、直接的な統制がどれだけ行われているかは、特に今の状況では不明確だ。

とはいえ、制度的な断裂も、イデオロギー的な転換も起きていない。大統領はマスード・ペゼシュキアン氏のままだ。議会はモハンマド・バゲル・ガリバフ議長が依然として率いている。外交政策はアッバス・アラグチ外相が引き続き主導している。

空爆で殺害された司令官や多くの高官の後任は、同じようなイデオロギーをもつ人たちだ。そして、イラン指導部のイデオロギー体制は戦時下でむしろ、さらに強硬になっているとも言える。

これは、体制転換よりも体制復活に近い。そして、その復活力は偶然のものではない。

イランの戦争目的は、従来の意味での勝利ではなく、耐え抜くことにあるからだ。

黒い服を着た人たちがイラン国旗を掲げる人々の間で右手の拳を突き上げている

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画像説明, イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍のアリレザ・タングシリ司令官の葬儀で拳を突き上げる人々(1日、テヘラン)

イラン政府は長年にわたり、単純な前提に基づいて行動してきた。それは、「軍事的に優勢な勢力に対して生き残ることこそ成功だ」というものだ。イスラエルおよびアメリカとの長きにわたる対立では、イランは常に、片方との紛争がもう片方を巻き込むと考えてきた。

イランにとって「まだ立ち続けている」ことは、妥協して得る結果ではなく、それこそが目的なのだ。開戦から1カ月がたった今も、イランの指揮系統は機能しており、国家機構は維持されている。抑止力も、低下はしているが、崩壊はしていない。

その点において、イラン政府は自分たちの重要性を維持している。

イランはなお、エネルギーの主要輸送ルートに対する影響力を持ち続けている。中でも、世界の石油供給量の約2割が通過するホルムズ海峡への影響力は大きい。それだけでイランは、持続的な攻撃にさらされながらも、大混乱を引き起こせるという、不釣り合いなほど大きな力をもっている。

アメリカにとっては、これはジレンマとなる。

もしアメリカが今すぐ撤退すれば、「忍耐は有効だ」というイランの核心的な教訓を、正しいものにしてしまいかねない。一方で、もし攻撃を継続すれば、決定的な勝利への明確な道筋がないまま、コストの増大に直面することになる。

トランプ氏の演説は、その板挟み状態を反映している。戦争を続けながら成功を主張することで、強さを示しつつ長期化は避けるという、相反する二つの必要性を両立させようとしているのだ。

こうした背景を踏まえると、トランプ氏の演説の直前にペゼシュキアン大統領が、イランには戦争を終結させるために「必要な意思」があると主張したのは、譲歩というより計算されたシグナルと言えるだろう。

ペゼシュキアン氏は1日、米国民に向けた公開書簡をソーシャルメディアに投稿した。その中で同氏は、「アメリカ・ファースト」は果たして実行されているのか、アメリカはイスラエルの代理として動いているのではないか、と問いただした。

これは、今回の紛争にただでさえ不安を抱く米国民を正面から狙ったものだった。イランの交渉姿勢を変えることなく、米政府にかかる政治的な圧力を強めようとするメッセージだった。

戦争終結に向けてイランが求める「譲れない一線」は変わっていないようだ。それは以下の四つだ。

体制の存続と主権の維持

アメリカおよびイスラエルに将来攻撃されないことへの、信用できる保証

実質的かつ実行可能な制裁緩和

抑止力の保持

これまでのところ、こうした要求について、イランに妥協する用意があるとは見受けられない。

しかし、アメリカとイスラエルによる爆撃が続けば、状況は変わるかもしれない。イランの軍事力や、戦争前からすでに急激に落ち込んでいた経済に対し、爆撃が多大な影響を及ぼしているのは間違いない。

仮に現在の政権が戦争を生き延びたとしても、危機に揺れる国を再建しなくてはならないだろう。

それでも、現政権が生き延びれば、さらに重要な成果につながる。抑止力そのものだ。

アメリカやイスラエルによる大規模な攻撃という暗黙の脅威が、イランを抑制する力として、もう何年も機能してきた。今回、イランが直接対決の末に無事生き残ったとなれば、米・イスラエルの脅威は今後、説得力を失う。

その変化がすでに、地域の思惑に影響を与え始めている。

アラブ諸国の一部は当初、戦争に反対だった。それが今では、自信を強めたイランをそのままにするくらいなら、戦争を最後までやり遂げるよう、トランプ氏に働きかけていると報じられている。

そういうアラブ諸国にとっては、決着のつかない結末は、紛争そのものより不安定要因になり得る。そして、その代償はアメリカより自分たちが多く払うことになると心配している。

アメリカはこうして、ありがちな、しかし深刻なジレンマに陥っている。撤退すれば、イランの「耐え抜く」というモデルを正当化してしまうリスクがある。とどまれば、終わりが明確ではない戦争にいっそう深く入り込んでしまうリスクがある。

これまでのところ、新生イランは出現していない。

もし、戦争が終わる時点でもイランが同じ状況なら、アメリカは「成功した」と主張するが、変革させようとした敵が根本的には前と同じだということになる。その場合、アメリカは自分たちの主張とイランの現実との整合性を、果たしてとれるのかどうかが問題となる。