【解説】 イランとの戦争が招く世界的エネルギー危機、中国は耐えられるのか

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画像説明, 中国・江蘇省南京市のガソリンスタンド(16日)
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オズモンド・チア・ビジネス記者

中国は以前から、湾岸地域で石油供給ショックが起きた場合への備えを進めてきた。そして今、その耐久力が試されている。2月末に始まったアメリカ・イスラエルとイランとの戦争で、主要な国際海上輸送路が寸断されているからだ。

米・イスラエルによる空爆への報復として、イランは重要な海上の交易路を通過する船舶を攻撃すると警告した。このため、中東からのエネルギー輸送は停止している。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、世界的な石油不足を引き起こした。湾岸地域の石油に依存するアジア諸国は大きな打撃を受けている。フィリピンは燃料を節約するため週4日勤務を義務づけ、インドネシアはわずか数週間分の燃料備蓄が底をつかないよう、対策を模索している。

世界最大の石油輸入国である中国もまた、影響を受けている。

しかし中国は、近隣諸国に比べて有利な立場にある。長年にわたる国家運営を通じて、世界的なエネルギー危機に備えてきたからだ。

試される中国のエネルギー網

アメリカとイスラエルが2月28日にイランへの攻撃を開始してからというもの、世界経済は混乱に陥っている。

開戦以来、原油価格は一時、1バレルあたり120ドル(約1万9000円)近くまで急騰した。海運やエネルギーインフラへの攻撃に加え、世界で最も交通量の多い石油の海上輸送路、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖が、価格を押し上げているのだ。

米エネルギー情報局(EIA)の推計によると、ホルムズ海峡は通常、世界の石油の約2割、つまり1日あたり約2000万バレルが通過する。

それが供給されなくなり、各国は湾岸地域に代わる原油供給源を必死に探している。一方で、自国の石油備蓄の放出に踏み切る国々もある。

中国は、アメリカに次ぐ世界第2位の石油消費国だ。その1日あたりの消費量は推定1500万~1600万バレルだと、複数の市場アナリストはBBCに話した。

中国国内では石油は主に、自動車やトラック、航空機からなる巨大な交通網で使われる。そして中国は、そうした石油の大半を海外から輸入している。

EIAによると、湾岸諸国は中国にとって、石油の主要な輸入元だ。サウジアラビアとイランからの石油は、それぞれ中国の輸入量の1割超を占めている。

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画像説明, 中国の電源構成の大部分を石炭火力発電が占めている

中国が輸入する原油の大部分は、イランや中東から南シナ海を経由して運ばれ、主に中国南部の工場や輸送の燃料として使われている。

一方で、中国北部では主に、国内の主要油田で生産される石油と、パイプラインを通じてロシアから輸入する石油が使われている。これは中東での戦争の影響を受けていない。

多くのアジア諸国が湾岸諸国からの石油に大きく依存してきたのに対し、中国のエネルギー輸入の約2割はロシア産だ。そのため、欧米の制裁措置にもかかわらず、ロシアは中国にとって最大の石油供給国となっている。

石炭もまた、中国の電源構成の大部分を占めている。同国には石炭の豊富な埋蔵がある。

中国は世界最大級の石炭生産国で、その生産量は世界の半分以上だ。

これに対し、国営メディアが報じた推計によると、石油とガスは、中国のエネルギー構成の25%強を占める。つまり、中国は欧州諸国やアメリカに比べて、外国産の資源への依存度が低いということになる。

不足の事態に備える

中国政府は長年、原油安と湾岸諸国からの豊富な供給を活用し、世界有数の石油備蓄を築いてきたと、投資銀行サクソのコモディティー戦略責任者オーレ・ハンセン氏は指摘する。

中国の税関当局によると、同国が今年1~2月に購入した原油量は、前年同期比16%増だった。

イラン産原油は、アメリカの制裁対象となっている。しかし、イランは中国にとって安価な原油の主要供給源だ。イランの原油輸出の8割超を買い付けているのは、中国だとの報道もある。

開戦後の船舶追跡データは、こうした原油の一部が依然として中国に到着していることを示している。ただし、中国の備蓄量の正確な規模については、アナリストの間で見解が分かれている。

貿易分析会社ケプラーによると、南シナ海には現在、計4万6000万バレル超のイラン産原油を積んだ複数のタンカーがいる。これは、中国国内で消費する数日分のエネルギー量に相当する。

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画像説明, 中国は推計約3カ月分の石油を備蓄している。画像は、上海郊外にある石油化学製品生産拠点の石油貯蔵タンク

前出の、投資銀行サクソのハンセン氏は、中国の石油備蓄は約9億バレルに上ると推計されていると指摘。これは、3カ月弱分の輸入量に相当する。中国国営メディアが引用した米コロンビア大学のデータでは、中国のガソリン備蓄は約14億バレルとされる。

ハンセン氏によると、中国が日々輸入するエネルギーのうち、どれほどの量をすぐに消費し、どれほどの量を備蓄に回しているのかは不明だ。それでも、膨大な量の備蓄が、供給が途絶えた際の「相当な緩衝材」として機能することに変わりはないと、同氏は見ている。

中国には備蓄がある。それにもかかわらず、中国政府は、近い将来の供給を慎重に管理しようとしている。

報道によると、中国当局は国内での価格上昇を抑制するため、国内の石油精製業者に対し、当面の間は燃料の輸出を停止するよう指示したとされる。BBCはこの件について中国政府に問い合わせたが、回答は得られなかった。

自給自足を追求

中国は、全国各地で風力・太陽光発電所を急速に拡大するなど、再生可能エネルギーの分野で世界をリードする存在となっている。

2025年には、風力・太陽光・水力発電が中国の電源構成の3割超に達した。その後は再生可能エネルギーの送電網を拡大し、現在では設備容量の推定半分以上が、再生可能エネルギーによるものだとされる。

再生可能エネルギーを推進した結果、2024年の中国の総エネルギー消費に占める原油の割合は約2割に過ぎなかった。

中国の石油需要が今後再び高まる可能性は低いと、国際エネルギー機関(IEA)はみている。

エネルギー経済学者ロジャー・フーケ氏は、中国の「野心的」な再生可能エネルギーへの移行は、単なる環境政策にとどまらず、今回のイランでの紛争に見られるような国際的リスクから自国経済を守るうえでも役立っていると指摘する。

「25年前に再生可能エネルギーへの投資を始めたことはある意味、中国にとって幸運なことだった。今になってその恩恵を受けているのだから」

豪シドニー工科大学のロック・シー氏は、中国で販売される新車の少なくとも3割を占める電気自動車(EV)が、同国経済の石油依存度を低下させる一助になっていると話す。

「つまり、中東情勢が緊迫しても、北京のEV所有者はガソリンスタンドで痛みを感じない」、「彼らの移動コストは、国際的な石油市場から切り離されている」と、同氏は言う。

とはいえ、中国経済は、石油供給ショックの影響をまったく受けないというわけではない。

エネルギー危機によって燃料価格が上昇すれば、EVの利用者も充電料金の値上げに直面する可能性はある。

中国国営紙チャイナ・デイリーが引用した公式報告によると、同国では先週、ガソリン価格が1トンあたり695元(約1万6000円)、軽油価格が1トンあたり670元(約1万5000円)上昇した。

また、原油価格の上昇は、プラスチックや肥料、そのほかの化学製品を生産する、中国の巨大な石油化学産業のコストを押し上げかねない。

前出の、シドニー工科大学のシー氏は、戦争によって今後、石油1バレルあたりの価格は高騰するだろうと指摘する。そうした事態になれば、世界最大級のエネルギー輸入国・中国は、その割増分を支払わざるを得なくなるだろう。