イスラエル、レバノン南部の一部を管理下に置くと 対ヒズボラ戦が終結後も

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画像説明, イスラエル軍の空爆を受けたレバノン南部ザウタル・アル・シャルキヤ
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イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は3月31日、イランと協力関係にあるレバノンのイスラム教シーア派武装勢力ヒズボラとの紛争終結後は、レバノン南部に緩衝地帯を設け、イスラエル国境からリタニ川までの約30キロの全域を管理下に置く方針を明らかにした。

さらに、イスラエル国境に近いレバノンの村にある全住宅は、イスラエル北部の住民に対する国境周辺の脅威を除去するため、すべて破壊されるとも述べた。

レバノンのミシェル・メナッサ国防相は、カッツ氏の発言について、「レバノン領土に対する新たな占領を強要する明確な意図」を反映するものだと非難した。欧州やカナダ、国連もイスラエルの発表を批判した。

イスラエルは3月2日に地上部隊をレバノン南部に投入し、レバノン全土に広範な空爆を行っている。

こうした攻撃は、2月28日に米・イスラエルが開始した対イラン攻撃で、イランの最高指導者が暗殺されたことへの報復として、イランの支援を受けるヒズボラがイスラエル北部に向けてロケット弾を発射したことを受けて始まった。

2024年11月にイスラエルとヒズボラの間で停戦合意が発効した後も、イスラエルはレバノン全域でヒズボラに対して連日のように攻撃を続けていた

レバノン保健省によると、3月初旬以降、レバノンでは少なくとも1238人が殺害されている。このうち少なくとも124人が子どもだという。国連人道問題調整事務所は、医療従事者52人も殺害されたとしている。

この間、ヒズボラの攻撃ではイスラエルの兵士10人と民間人2人が殺害されたと、イスラエル当局は報告している。

国連とレバノン保健省によると、レバノン南部ではここ数日の間に、インドネシア人の平和維持要員3人やレバノン人ジャーナリスト3人を含む複数の死者が出たという。

イスラエル国防軍(IDF)は、ジャーナリスト2人を殺害したと認め、証拠を示さないまま彼らは「テロリスト」だったと説明した。また、女性ジャーナリスト1人が殺害されたという報告も、把握していると述べた。

平和維持要員を殺害した人物については、特定されていない。

レバノン国内では、国民の約6人に1人に相当する100万人超が家を追われるなど、以前からレバノンで起きていた人道危機が深刻化している。

イスラエル当局は攻撃の目的について、イスラエル北部の住民をヒズボラの攻撃から守るためだとしている。

カッツ氏は31日に国防省が公開したビデオ声明で、レバノン南部におけるイスラエルの軍事的意図について、追加の詳細を明らかにした。

「作戦終了時にIDFはレバノン領内に安全地帯を設置し、対戦車ミサイルへの防御線として展開する。リタニ川までの全域について治安を維持する」

さらに、「北部へ避難しているレバノン南部の住民60万人以上の帰還は、イスラエル北部住民の安全と治安が確保されるまで、リタニ川以南では全面的に禁止される」と国防相は述べた。

また、「国境付近のレバノンの村にある全住宅は、ガザのラファやベイト・ハヌーンと同じ方式で、北部住民に対する国境周辺の脅威を恒久的に除去するため、すべて破壊される」と述べた。

カッツ氏は3月上旬の時点で、レバノン南部に緩衝地帯を設ける意向を表明。イスラエル北部が安全になるまでは、レバノン南部からの避難者の帰還を認めず、国境付近のレバノン側の家屋を破壊するとも述べていた。

しかし、今回の発言は、ヒズボラとの紛争終結後もイスラエル軍がレバノン南部に駐留するという、これまで以上に踏み込んだ内容だった。

レバノンのメナッサ国防相は、カッツ氏の発言は「もはや単なる脅しではなく」、「レバノン領土に対する新たな占領を強要し、数十万人の市民を強制的に避難させ、南部の村や町を組織的に破壊するという明確な意図」を反映していると指摘した。

トム・フレッチャー国連事務次長(人道問題担当)は31日、国連安全保障理事会での演説で、「現在の事態激化は、すでに危機的だった状況をさらに悪化させている」と述べた。

フレッチャー氏によると、敵対行為の影響で一次医療センター51カ所と4病院が閉鎖され、ほかの施設も損傷を受けたり、稼働能力が低下しているという。

「我々が目の当たりにしている強制的な避難の度合いを考慮すると、我々は国際社会として、占領地域リストに新しい場所が加わる事態に、どのように備えるべきなのか」と、フレッチャー氏は理事会に問いかけた。

カナダのマーク・カーニー首相は、イスラエルによるレバノンへの行動を「違法な侵攻」だとして非難した。

首相は記者団に対し、「これは違法な侵攻だ。レバノン侵攻であり、同国の領土主権の侵害だ」と述べた。

さらに、「現実的に見れば、レバノン政府はヒズボラを禁止し、同組織とそのテロ活動、そしてイスラエルへの脅威に対処しようとしている。(レバノン政府が何もしていないというのが)今回の侵攻の正当化理由として示されているが、我々はそれを非難する」と述べた。

欧州10カ国の外相は同日、共同声明を発表し、レバノンでの紛争が「これ以上拡大」することを避けるようイスラエルに求め、レバノンの「領土保全」を尊重するよう呼びかけた。

声明は、「自分たちとは無関係な戦争の悲劇的結果に再び苦しんでいるレバノンの政府と国民への全面的な支持」を表明した。

10カ国の外相はさらに、「この状況の責任はヒズボラにある」とし、イランを支援するためにイスラエルを攻撃するのをやめるよう同組織に求めた。

この声明には、ベルギー、クロアチア、キプロス、フランス、ギリシャ、イタリア、マルタ、オランダ、ポルトガル、イギリスの各国外相と、欧州連合(EU)のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表が署名した。

レバノン南部は、ヒズボラの主要支持基盤であるレバノンのイスラム教シーア派コミュニティーの中心地だが、キリスト教徒などほかのコミュニティーも生活している。

今回のイスラエルによる地上侵攻は、すでにレバノン国民の間に広範な不安をもたらしている。

2024年11月の停戦合意では、ヒズボラは武装解除し、レバノン南部の拠点から撤退することになっていた。この動きはレバノン政府と軍が監督するはずだった。

しかし、進展はあったが部分的だった。イスラエルはレバノン南部に複数の軍事拠点を維持。ヒズボラが再武装や再興を図っていると非難しながら、ヒズボラの拠点だとする標的への攻撃を継続していた。

レバノン政府には、ヒズボラを武装解除する意志はあったかもしれない。だが、それを実行する能力は常に欠けていた。レバノン政府ととヒズボラとの間で大規模な衝突が起きる可能性も、内戦に逆戻りするのではないかとの恐怖を呼び起こすなど、長らく大きな懸念材料となってきた。

イスラエルのカッツ国防相は以前、レバノン政府が「何もしてこなかった」ため、イスラエルが行動を取っていると発言していた。

レバノンのジョセフ・アウン大統領は、イスラエルの計画を「民間人に対する集団的懲罰」と形容。レバノン領内でのイスラエルのプレゼンス強化を図る「不審な試み」の一環である可能性があると指摘している。

動画説明, レバノンの首都ベイルートの建物がミサイル攻撃を受ける瞬間の映像