英首相官邸はマンデルソン大使の審査を「軽視していた」 解任された外務官僚が証言
画像提供, UK House of Commons
ジョシュア・ネヴェット政治記者、ジェニファー・マキアナン政治記者
与党・労働党の重鎮だったピーター・マンデルソン卿の駐米大使任命をめぐる問題で、外務省元高官のサー・オリー・ロビンスは21日、英下院の外務委員会に出席した。ロビンス氏は、首相官邸は当時、治安当局によるマンデルソン卿の身辺調査を「軽視する姿勢」を取っていたと非難した。
マンデルソン卿については先に、昨年1月末の時点で審査で不合格だったものの、外務省が審査機関の勧告に反して大使就任を認めていたことや、その事実をキア・スターマー首相に伝えていなかったことなどが明らかになっている。ロビンス氏は、英紙ガーディアンが16日にこの事実を報道した後、外務事務次官の職を事実上、解任された。
しかしロビンス氏は、この日の公聴会で自身の対応を擁護。マンデルソン卿を早期に大使に就任させるよう、首相官邸から「絶え間ない圧力」を受けていた中で、自分は正規の手続きに従って行動したと主張した。
一方、首相官邸は、身辺調査を軽視したとの主張を否定し、任命手続きについて進捗(しんちょく)の報告を求めるのは合理的だったと述べた。
マンデルソン卿は2024年12月、詳細な審査の実施より先に、駐米大使就任が発表された。2025年2月10日に正式に就任したものの、アメリカの性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とのつながりを理由に、就任から7カ月後の昨年9月に大使を解任された。
マンデルソン卿を重要な外交ポストに任命した決定をめぐり、スターマー首相はここ数カ月間、批判を受け続けている。特に、任命について「適正な手続きが完全に行われた」と議会で発言したことが、議員たちを欺くものだったとして、辞任を求める声が上がっている。イギリスの閣僚行動規範は、議会をわざと欺いた閣僚は辞任するものと定めている。
一方、治安当局による身辺調査をめぐる問題は、ガーディアンの報道まで明らかにされていなかった。政府報道官によると、マンデルソン卿が審査に不合格だったことは、スターマー首相も閣僚らも先週初めまで知らなかったという。
スターマー首相は20日の議会で、勧告内容を知らされなかったことに「愕然(がくぜん)としている」と述べた。
しかし21日の公聴会では、ロビンス氏が自らの見解を述べる機会を得て、2時間以上にわたり一連の衝撃的な主張を展開した。
「微妙なケース」
ロビンス氏は、外務省はマンデルソン卿の任命を正式に承認するよう、首相官邸から「絶え間ない圧力」を受けていたと述べた。また、そこには閣僚経験者であるマンデルソン卿を「可能な限り一刻も早く就任させ、アメリカに赴任させる」必要があるという「強い期待」があったと語った。
ロビンス氏は、マンデルソン卿に就任認可が与えられる2週間前に、外務事務次官の職についた。ロビンス氏はこの時、前任者から、首相官邸はマンデルソン卿の地位を考えれば身辺調査は「必要ではないかもしれない」と思っていると、説明されたと述べた。
「内閣から示されていた立場は、マンデルソンについて身辺調査を行う必要はないというものだった」と、ロビンス氏は証言した。
「彼は上院議員で、枢密顧問官でもあった。任命に伴うリスクは周知のもので、首相には任命前に明確に伝えられていた」
「最終的には、外務・英連邦・開発省が強く主張し、断固とした姿勢を取った。前任者が対面で非常に強い対応を取らざるを得なかったと理解している」とも、ロビンス氏は述べた。
ロビンス氏は、電話で圧力をかけてきた人物を明らかにすることを拒否したが、こうした過程には明らかに審査を「軽視する姿勢」があったと述べた。一方で、「我々(外務省)は適切に対処していたと確信している」とし、圧力に「屈したことはない」と強調した。
ロビンス氏はまた、マンデルソン卿の身辺調査を行った内閣府の専門機関・英安全保障審査局(UKSV)が指摘した懸念点は、エプスティーン元被告との過去の関係についてではなかったと述べたが、具体的な内容については明らかにしなかった。
そのうえで、外務省がマンデルソン卿の就任を認めた判断は適切だったと強調した。
「私は、UKSVがマンデルソン卿を微妙なケースと見なしており、認可を出さないよう勧告する方向に傾いていたと報告を受けていた。しかし、外務省の安全保障部門は、UKSVが最も重大な懸念として特定したリスクは、管理可能、あるいは軽減可能だと評価していた」
「また、UKSVは、どういう形かは分からないが、外務省が適切なリスク管理を前提に承認を与えることを望むかもしれないと認識していたと、聞いていた」
ロビンス氏はこのほか、公聴会で以下の主張をした。
・自分自身は、UKSVが承認を与えるべきではないと勧告した文書そのものは見ていない
・身辺調査について、審査の結果以外の詳細を首相に伝えることは、規則に反する行為だった
・マンデルソン卿を駐米大使候補から外せば、ドナルド・トランプ米大統領の新政権との関係において「かなりの問題」を引き起こしていただろう
「指導者にふさわしくない」と野党
スターマー首相は20日、マンデルソン卿の大使任命では「適正手続きが完全に行われた」と昨年、議会で答弁したことについて、議会を欺いたとの批判を否定した。
閣僚規範では、故意に議会に誤解を与えた閣僚は辞任が求められる。一方、不注意から誤った答弁をした際には「可能な限り早い時点」での訂正が求められている。
首相はまた、もし自分がUKSVによる審査結果を当時知っていたら、任命を進めなかったと力説した。
英下院では21日、ロビンス氏の公聴会後に最大野党・保守党が要求した緊急討論が行われ、ケミ・ベイドノック党首が、スターマー氏に不信任動議を突きつけるべきだと述べた。
ベイドノック氏は、「国民には彼が職責を果たせていないことが明らかで、公務員には彼が責任を押し付けていることが明らかで、この議会の各会派の議員には、彼が指導者としてふさわしくないことが明らかだ」と批判した。
一方で、この討論の中でスターマー氏への不満を示した労働党の議員はごく少数にとどまった。そのうちの1人、リヴァプール・ウェスト・ダービー選出のイアン・バーン議員は、「首相を権力の座に押し上げた政治運営について徹底的な検証」を求めた。
一部の議員は、ロビンス氏が公聴会で述べた、首相官邸が当時の首相報道官だったドイル卿に外交職を与えようとしていたという主張に疑問を呈した。
これについてドイル卿は声明で、そうした職を求めたことは一度もなく、誰かが自分の仕事を探すように外務省に相談していたことも知らないと述べた。
首相官邸は、「人事上の協議」の詳細を明らかにすることを拒んだが、ドイル卿は官邸を離れた後、外務省の職に就くことはなかったと指摘した。
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