EU、ウクライナ向け900億ユーロ融資を承認 パイプライン再稼働で膠着が解消

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画像説明, ハンガリーとスロヴァキアに向かうドルジバ石油パイプラインは、1月末に遮断されていた(資料写真、2022年5月撮影)
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ポール・カービー 欧州デジタル編集長

ウクライナ政府は22日、ロシア産原油をハンガリーとスロヴァキアへ送るパイプラインの送油を再開したと発表した。これによって、欧州連合(EU)の対ウクライナ融資900億ユーロ(約16兆8000億円)をめぐる数カ月間の膠着(こうちゃく)が解消された。EUからの大型融資は、ウクライナにとって極めて重要な支援と見られていた。

関係筋によると、ウクライナが送油再開を発表した直後、ブリュッセルで会合に集まっていたEU各国の大使は、900億ユーロの融資とロシアに対する第20次制裁パッケージについて仮承認した。最終的な承認は23日に予定されている。

900億ユーロの融資は昨年12月に合意されていたが、ウクライナがロシアの攻撃による被害でハンガリーへの送油ができなくなったと主張すると、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は今年2月、融資に拒否権を行使した。

ウクライナの石油関係者と政府筋は、EU各国の大使が融資を協議し始めてから数時間後に、送油再開をハンガリーとスロヴァキア両国の当局者に伝えた。

オルバン首相は、融資実行の前に送油を再開するよう求めていた。ウクライナは21日にパイプラインの修復が完了したと、確認した。

オルバン氏は今月12日の総選挙で敗れ、ハンガリーでは16年ぶりに政権交代が実現することになった。このことも、EUのウクライナ融資実行にとって追い風となった。

ハンガリーのマジャル・ペーテル次期首相は、同国とEUの悪化した関係の立て直しを優先課題としている。

「ウクライナは本当にこの融資を必要としている。ロシアがウクライナより長く持ちこたえらるわけではないという、しるしでもある」と、EUのカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)は大使会合に先立ち発言した。

このEU融資をウクライナのタラス・カチカ副首相は、ウクライナの「生死に関わる問題」だと呼んでいた。その3分の2はウクライナの防衛需要の強化に、残りは幅広い財政支援に充てられる。

スロヴァキアのデニサ・サコヴァー経済相は、ウクライナのドルジバ・パイプラインを管理するエネルギー事業者ウクトランスナフタから、パイプラインの加圧が22日朝に始まり、原油は23日にもスロヴァキアへ入るようになると伝えられたと述べた。1月27日以来の送油になる。

送油量はまだ明らかではないが、ウクライナ政府筋は、現地時間22日午後0時35分(日本時間午後6時35分)に原油の通過が始まったと話している。

ハンガリーのエネルギー企業モルは、遅くとも23日までに最初の供給が到着すると見込んでいると説明した。

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画像説明, ウクライナ西部ストリイ近郊にあるドルジバ・パイプライン(資料写真、2009年撮影)

来月初めまで首相を続けるオルバン氏は19日、パイプラインを通じた「原油供給が回復し次第、我々はもはや融資承認を阻んだりしない」と明言した。

総選挙で敗れたオルバン氏は激しい選挙戦の最中、ウクライナが自国と隣国スロヴァキアに「石油封鎖」を課していると非難し、EUがウクライナと結託して自分に対抗しているのだと主張していた。

当時の衛星画像は、1月下旬にウクライナ西部ブロディの主要な原油タンクに大きな被害があった様子を示している。ウクライナ政府は修理に時間がかかると主張し、技術者がロシアの攻撃を受けたとも述べていた。

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画像説明, ウクライナ国家非常事態庁(DSNS)は、ロシアの砲撃後のブロディ石油拠点から立ち上る煙の写真を公開した。

一方、ウクライナは今週、ドルジバ・パイプラインに関連するロシア・サマラ州のポンプ施設など、ロシアの石油施設も標的にしている。

昨年12月の合意をほごにしてウクライナに900億ユーロの融資を提供しないとしたオルバン氏の決定は、融資に参加しないことをハンガリー、スロヴァキア、チェコに認めていたEU首脳らを激怒させた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に最も近いEUのパートナーと長らく見なされてきたオルバン氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とEUの双方に敵対する姿勢を、選挙運動の中心に据えたが、敗北するに至った。

ハンガリー全土に掲示された選挙ポスターには、「彼らは危険だ!」という文言とともに、ゼレンスキー氏とマジャル氏が並んで描かれていた。

ゼレンスキー大統領は22日、ウクライナはEUに対する義務を果たしていると述べ、ウクライナに対し900億ユーロのEU資金が解除されることは「現在の状況下で正しい合図だ」と話した。

さらにゼレンスキー氏は、「ヨーロッパの支援パッケージが、素早く稼働することが重要だ」と付け加えた。ただし、ウクライナの報道によると、資金がウクライナに届くまでにはなお数週間かかる可能性があるという。

これとは別にロシアは、ドルジバ・パイプラインの別区間を通ってドイツに向かうカザフスタン産原油の流れを5月1日から停止すると発表している。

ドイツ政府はロシアが2022年2月に始めたウクライナ全面侵攻への対応として、ポーランド国境近くのシュヴェートにある製油所へのロシア産原油の供給を停止し、代替としてカザフスタン産に切り替えた。

このPCK製油所は、ベルリンと周辺地域の燃料と暖房用石油の大半を供給している。ロシアはカザフスタン産原油の流れを維持する上での「技術的」問題を理由に挙げている。

カザフスタンからの原油は、ロシア黒海沿岸のノヴォロシースクにあるロシアの輸出ターミナルを経由する。このターミナルはここ数カ月、ウクライナのドローン攻撃を受けている。

ドイツのカテリーナ・ライヒェ経済相は、グダニスク港やロストック港を経由するシュヴェート向けの代替供給ルートがあると述べ、生産は維持できるとの自信を示した。