英首相、前駐米大使の審査結果を知らされなかったのは「衝撃」と

画像説明, スターマー英首相は、イラン戦争とホルムズ海峡警備の対応協議のためパリを訪れている
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イギリスのキア・スターマー首相は17日、前駐米大使のピーター・マンデルソン卿について治安当局による審査結果を自分が知らされていなかったのは、「衝撃で愕然(がくぜん)としている」と記者団に話した。審査結果を外務省が首相に報告しなかったことが報道で明らかになり、同省の事務方トップが辞任する事態になっている。マンデルソン卿は、アメリカの性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とのつながりを理由に、昨年大使を解任された。

マンデルソン卿の駐米大使任命について、身辺調査の担当者が不適切だと勧告していたにもかかわらず、外務省がこれを覆していたことが明らかになり、スターマー首相の辞任要求が野党各党から相次いでいる。

イラン戦争やホルムズ海峡警備の対応を諸外国と協議するためパリを訪れているスターマー首相は、記者団に対し、「ピーター・マンデルソンが任命時に安全保障上の審査に合格しなかったと、私が知らされなかったことに、愕然としている」と述べた。

「審査に通らなかったにもかかわらず、私はそれを知らされず、適正な手続きが踏まれたと議会で説明した。これは許されることではない」と首相は続け、「私だけでなく、閣僚は誰一人として知らされていなかった。私はこのことに、激怒している」と話した。

首相はさらに、「私は月曜に議会に対し、完全な透明性をもって、関連するすべての事実を明らかにするつもりだ。議会が全体像を把握できるようにする」と言い、「彼が審査を通らなかったことを、官邸は知らされていなかった。これは完全に容認できない」と強調した。

マンデルソン卿の身辺調査の結果については、英紙ガーディアンによる16日の報道で、昨年1月末の時点で治安当局による審査で不合格になったものの、外務省が審査機関の勧告に反して大使就任を認めていたとことが明らかになった。報道を受けて、政府報道官もこれを認めた。

マンデルソン卿の審査と大使任命当時、外務次官に就任して2週間だったサー・オリー・ロビンスは16日、スターマー首相によって事実上解任された。

ロビンス氏は21日にも下院外務委員会に出席し、マンデルソン卿の身辺調査について質問に答える見通しだと、BBCの取材で分かった。ロビンス氏はまだ正式に委員会の要請に応じていないものの、消息筋によると、出席に向けて準備を進めているという。

複数の消息筋は、審査担当者がマンデルソン卿の大使就任を認めるべきではないと外務省に勧告していた内容を、ロビンス次官が実際に目にしていたのかどうか、疑わしいと話している。審査結果について次官に完全な報告書が渡されていた可能性は低く、大使任命手続きの中で浮上した限定的なリスクの情報しか次官は見ていなかった可能性があるという。

政府報道官によると、マンデルソン卿が審査に不合格だったことは、スターマー首相も閣僚らも今週初めまで知らなかったという。

審査は、内閣府の専門機関・英安全保障審査局(UKSV)が担当する。対象者が機密情報へのアクセス権を悪用したり、恐喝や賄賂の標的になったりする可能性が低いことを確認することが目的。

審査局は、対象者の信用情報や犯罪歴などを調べる。また、特別な訓練を受けた審査官が対象者を面接し、健康状態や友人関係、家族、性交歴などについて質問する。

UKSVは外務省に対し、マンデルソン卿を審査した結果、大使就任を認めるべきではないと、明確に勧告していたことが、BBCの取材で分かった。外務省には、潜在的なリスクの一覧と、結果を総括した勧告が提示されていたとされる。

勧告は、「可」「条件付き可」「不可」の3区分のいずれかに分類される。関係者によると、マンデルソン卿について外務省に示された勧告は「不可」だった。

この勧告を覆す権限を持つ政府省庁は、外務省だけだという。

複数の労働党政権で閣僚を務め、同党の重鎮だったマンデルソン卿は、詳細な審査が実施されるより先に、2024年12月の時点で駐米大使への任命が発表され、2025年2月10日に正式に就任した。エプスティーン元被告との関係を理由に解任されたのは、その7カ月後だった。

スターマー首相は2025年9月10日の下院で、マンデルソン卿の大使任命については「適正手続きが完全に行われた」と3回にわたり答弁している。

この発言が議員たちを欺くものだったとして、スターマー氏に対し、辞任を求める声が上がっている。イギリスの閣僚行動規範は、議会をわざと欺いた閣僚は辞任するものと定めている。

スターマー氏のパリでの発言に先立ち、主要閣僚のダレン・ジョーンズ氏は、適正手続きが踏まれたとする首相の議会答弁は議員を欺くものではなかったため、辞任する必要はないと主張していた。

ジョーンズ氏はBBCラジオの番組で、マンデルソン卿が任命された当時、身辺調査の審査結果について閣僚に報告する義務は規則上なかったのだと説明し、その規則はすでに修正済みだと述べた。

首相に再度の辞任要求

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画像説明, 記者会見でスターマー首相の辞任を強く求める保守党のベイドノック党首(17日、ロンドン)

野党各党は首相の辞任を求めている。最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、政府によるこれまでの説明は「まったく荒唐無稽」で、「すべての道は辞任に通じている」と述べた。

ロンドン・ウェストミンスターで記者会見したベイドノック党首は、スターマー首相はあまりに「無能」なため、このまま国を率いるなど「あり得ない」ことだと主張。首相は「自分自身は正しいと信じるあまり目が見えなくなり、誰の目にも明らかなことが見えなくなっている」と非難した。

また、「首相を排除するために、議会のあらゆる手段を検討している」とした上で、労働党議員に対し「正しい行動を取り、彼を追い出すべきだ」と呼びかけた。

ベイドノック氏は、「不信任投票を成立させるには、保守党議員の数が足りない」とも認め、「それを可能にし、実現できるのは労働党議員だ」と述べた。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、首相の説明は「まったく筋が通らない」として、「残念ながら、首相は辞める必要がある」と述べた。去らなければならない」と語った。

デイヴィー氏は、スターマー首相がわざと議会を誤解するように答弁したのかどうかについて、ボリス・ジョンソン元首相のいわゆる「パーティーゲート」問題の際に行われたと同様に、下院倫理基準・特権委員会による調査を求めている。

自由民主党のリサ・スマート内閣府担当報道官は、首相の倫理顧問を務めるローリー・マグナス氏に書簡を送り、調査を要請した。

スコットランド国民党(SNP)、緑の党、リフォームUKの各野党も、スターマー首相の辞任を求めている。

下院外務委員会のエミリー・ソーンベリー委員長(労働党)は、21日にロビンス氏を招き、証言を求めている。マンデルソン問題をめぐり、ロビンス氏が関与を追及されるのは2度目となる。

ソーンベリー氏は英スカイ・ニュースに対し、「(ロビンス氏)自身の判断だったのか、それともどこかから圧力を受けていたのか、教えてくれるかもしれない」と話した。「あるいは、公務員として、どこかから指示を受けていたのか。もしそうなら、それは誰からだったのか」。

スコットランド労働党のアナス・サルワー党首は、エディンバラでの選挙活動中に記者団に対し、マンデルソン問題をめぐり引き続きスターマー首相の辞任を要求し続けると述べた。

「私は自分の立場を示したし、それを撤回しない。マンデルソン問題は私にとって転換点だった」とサルワー党首は言い、マンデルソン卿は「党と国を裏切った人物」だとの見方を示した。